よく飛ぶ 紙飛行機への道

【第17回・最終回】 よく飛ぶ紙飛行機の力について

よく飛ぶ 紙飛行機への道

紙飛行機の有益な影響

一般に物質が人間の肉体または精神に作用することにより得られる「有益な効果」の事を「効能」と呼ぶ。通常は医薬品や、温泉について研究あるいは表示されるものである。

たかが紙飛行機とは言え、紙飛行機もまた物質である。法律上効能とは言えないが、よく飛ぶ紙飛行機は、私達に有益な影響を与えてくれるのである。今回は、よく飛ぶ紙飛行機の有益な影響について検討してみたい。

運動不足解消に

紙 飛行機を完成させたら、即ゴムカタパルトで全速発進。ということは通常考えられない。よく飛ぶように慎重に細部を調整しながら、公園のような野外で試験飛 行を何度も行うのが普通である。すると投げた紙飛行機を拾うために、数メートルから十数メートルを何度も何度も往復することになる。
いざ本番のフライトと なれば、数十~200メートル先まで回収しに行かねばならず、このとき、次のフライトを早く行いたいが為に、無意識に小走りになることが多い。

そうして満足するまでフライトを楽しむと、これが結構いい運動になるのだ。
紙飛行機のフライトを野外で楽しむことには、運動不足解消という有益な影響があると言える。

手先・指先の訓練に。または精神の鍛錬に

二宮式紙飛行機の製作時、型紙をハサミで切り抜き、接着剤で正確に張り合わせ、胴体や翼に狂いが無いか調整する。
この一連の行為は、それなりの注意力、集中力を要する。

特に型紙を描線に沿って切り抜く行為は、子供の教育には欠かせないものと考える。
日本人の手先の器用さを育んで来たものの1つは、ハサミを自在に操る為の年少時からの工作遊びによる訓練であり、それは正に型紙を切り抜く行為である。同時 に、失敗や怪我をしないための注意力、集中力が養われる。

そればかりか、切り抜き時にはまず大まかに部品を切り離し、次の接着に必要な部品を見分けて、細 部を切り取っていくという手順を理解しなければならない。冷静に計画を立て、実行に移す能力も養われる。

また、接着剤が乾燥するまで待つという行為は、紙飛行機を速く飛ばしたい子供に忍耐力を要求する。紙飛行機の製作と言う行為は、子供達の身体と心を発達させるのである。

私達を結びつける力

よく飛ぶ紙飛行機を飛ばせば、そこには人と人の交流が生まれる。
たとえば、日本紙飛行機協会の主催する大会がそうである。決勝では全国から集ったファイナリスト達が、互いに競い、または語らうのである。各地の愛好会もしかりで、子供達が大人に、技術的指導を求める光景なども珍しくない。

子供の頃の筆者が経験したことであるが、同じクラスでも、あまり親しく話をしたり、遊んだりしない相手がいるものだ。ある冬の日、当時の筆者が小学校の屋上 で、折り紙飛行機を試験飛行している時(当時の筆者は、折り紙飛行機を風の中で螺旋上昇させるため、折り方を工夫し、研究していたのである)、そのような 疎遠な子達がたまたま居合わせていた。

やがて試験飛行を終えた筆者が風に対して90度の角度で、紙飛行機を思いっきり投げ上げると、うまい事に風 に乗り、大きく螺旋を描きながら遥か上空へ登っていったのだ。発進に成功した筆者は大声で彼らに向かって叫び、彼らがふり返るや、頭上の紙飛行機を指差し た。飛行時間は数十秒か、それ以上であったろう。

その子達は紙飛行機を見上げながら大きな歓声を上げ、筆者と共に手をたたいたり、肩を組んだりして喜んだ。その子達は、飛ばした地点より遥かに高く舞い上がる紙飛行機など知らなかったのである。そして気が付いたら、私達は親しい友となっていたのだ。

子供心に筆者が感じたのは、「よく飛ぶ紙飛行機で一度に友達になれた」という新鮮な驚きであった。筆者にはあの冬の日が、忘れられない思い出である。

このようによく飛ぶ紙飛行機には、私たちを風の力で結びつけ、打ち解けさせる力がある。

世界一の紙飛行機、世界一の紙飛行機文化

二宮式紙飛行機は、もちろん上記の効能を全て備えている。ただし、私たちを結びつける力については、日本紙飛行機協会を始めとした、各地の愛好会の活動も欠かせないものであろう。このような活動と、よく飛ぶ紙飛行機の供給を、未来の世代の為にも決して絶やしてはいけない。

それにしても、二宮式紙飛行機ほど、高度に洗練されたデザインで、よく飛ぶ紙飛行機は他に無いのではないかと痛感する。正に世界一である。そして紙飛行機を通じて人々の輪が広がった社会とは、世界に誇れる素晴らしい文化ではないのか。

さて、17回に渡って執筆してきた本稿であるが、現状の基礎資料に基づいて語るべきことは、ひと通り語り尽くしたと思っている。

筆者は一旦、ここで筆を置くことにしようと思う。
もちろん筆者は紙飛行機を愛しているので、紙飛行機の収集調査はこれからも続けていく。いつか愛すべき二宮式紙飛行機のリストを、より完璧なものにすることを夢見て。

最後に

二宮康明先生が産み出した世界一の紙飛行機と
広場で花開く私達の世界一の紙飛行機文化が
いつまでも、あまねく人々の手の中にありますように。
二宮式紙飛行機よ、永遠なれ。

(参考:日本紙飛行機協会ホームページ、誠文堂新光社「よく飛ぶ紙飛行機集」および「子供の科学」、AG社発売のホワイトウイングス)

2013年4月1日