よく飛ぶ 紙飛行機への道

【第2回】二宮式紙飛行機のデザインと名称

よく飛ぶ 紙飛行機への道

二宮式紙飛行機の機体番号

子供の科学版の「よく飛ぶ紙飛行機 第3集」収録機からは機体番号としてN-ナンバー(便宜上、こう呼んでおく)が付記されている。これは設計順の通し番号であり、機体形状・材質等との関連は無い。当然、未発表の機体も(多数)あると考えられる。

機体番号末尾にアルファベットが記載されている場合もある。これは同番号の機体の改良型(組み立てやすさや、主翼の補強等)を示している。実際に紙飛行機を設計・製作し、試験飛行をしたうえで、設計に何度も手直しをすることもあるのだろう(例:「円形主翼の先尾翼機N-964G」は、N-964から7回の改良が行われていることになる)。

更に、各型紙に付与される二宮氏の解説・紹介文を詳細に調べていくと、「T尾翼機の安定性の改善」や、「飛ばしやすい無尾翼機の開発」については、長年取り組まれている様子が見て取れる。

ただし、比較的最近のプロフィール機等では、おもりを不要にするバラストを紙部品で確保するため等、大幅に型紙形状が異なり、実機が同型機であっても新しい機体番号が振られている場合がある。また、競技用機N-350D-95のようにN-350を95%に縮小した旨を付記した例外もある。

なお、N-ナンバーは設計番号であるため、連載発表年月の情報とあわせると、どんな時期にどんなタイプの機体が開発・発表されていたかを研究可能となる。たとえば、スチレン機の研究時期、ホチキスペグの開発時期を解析することが可能である。
(※2019年8月28日追記:子供の科学連載では、少なくとも2013年当時では型紙を毎月編集部に収めるのではなく、1年分をまとめて渡していたようだ。)

N-ナンバー未公表の機体

①N-ナンバー記載の無い初期の「子供の科学」版
筆者の手元にある連載第一回の「トレーナー」や「別冊よく飛ぶ紙飛行機第1集、第2集」の合計69機種では、N-ナンバーは記載されていない。第3集に掲載されている、連載開始前に国際競技会で優勝した競技用機がN-78と、公表されたN-ナンバーとしては最も若い番号であることから、連載初期の機体にもN-ナンバーが付与されていると推測できる。

N-78は実際の優勝機に機首部品を左右一枚追加してあり、優勝機と全く同一ではない。しかしN-78が改良された別機として扱われているならアルファベットの付与があるはずである。さらに、第1集に登場するN-ナンバー不明の競技用機は、優勝機(≒N-78)の尾翼を組み立てやすくした(差し込み式→高翼式)改良機であることも傍証となる。

いずれにしろ、連載初期の機体のN-ナンバーは、二宮氏から公表されない限り謎のままであるが、番号があること自体は確実である。

②ホワイトウイングス版のN-ナンバー
N-ナンバーは紙以外の素材を用いた機体にも一貫して割り振られているようで、ホワイトウイングス版のバルサ胴機やスチレン機にも、”N-”ナンバーが存在するはずである。
実際、連載・単行本に記載されたため判明した例としては、「ホワイトウイングス レーサースカイカブⅡ = N-1062」の例がある。

また、ホワイトウイングス版には、子供の科学版と同一の機体または改良型が数多く含まれており、この場合はN-ナンバーを同定、または推測できる。ただし、外形が一見同形機でも、全長や翼形、細部の形状が微妙に異なる場合も多く、同定はそう容易ではない。

なお、ホワイトウイングスの「発泡スチレン機型紙集 20機セット」の収録機と「N-1314ジェット機 (わりばしタイプ)」には、なぜかN-ナンバーがそのまま記載されている。

ホワイトウイングス独自の機体番号と機体の愛称

ホワイトウイングスの機体番号は3桁で、機体の種類ごとに百番台がコード化されており、残りの二桁は商品化時の通し番号と思われる。したがってN-ナンバーとは関係が無い(例: Racer 550 Skycub Ⅲ)。

軽飛行機(Light Plane ): 3 xx
競技用機(  Racer   ): 5 xx
大型三角胴機(Triliniar): 7 xx

なお、ホワイトウイングス版のプロフィール機(実機を模した機体)は実機の名称が付されるのみで、機体番号は振られていない。ところがプロフィール機は実機が同一でも何度か仕様変更されているものがあり、なかなか油断できない。例としてスピリットオブセントルイス号をあげると
 全紙製・金属フック・鉛おもり
 全紙製・紙フック・おもり不要
 全紙製・紙フック・おもり不要・プレカット型紙
 バルサ胴・バルサフック・ワッシャーおもり・プレカット型紙
 という具合である

また、特異な形態で実機の存在しない無尾翼機・変形機などにも表示はない。これも油断できないのだ。例えば無尾翼機は同じ基本デザインで「二宮康明の紙飛行機Vol.1」「英語版 Vol.4 未来の飛行機シリーズ」「英語版 Vol.7 Pioneer of Flight」と3種の15機セットに含まれているが、実は3機とも細部の形状が異なる別機種なのである。これは実物の型紙を詳細に比較しない限り、識別は困難である。(※上記2019年9月25日追記更新)


さらに、明らかに軽飛行機、競技用機でありながら3桁の番号を付与されていない機体(例:Racer Skycub Tなど)もある。改設計の有無や胴体材質(紙orバルサ)による区別も当然無い。

また、初期の製品で金属フックからバルサフックに改設計されたにも係らず、機体番号が変更されていないものもある。

(例:Racer 527 Sky Fish → Racer 527 Sky FishⅡ)
この機体番号は、初期の15機セット「AG1500二宮康明の紙飛行機 Vol.1」を見てみると、競技用機にのみ付けられているのがわかる。つまり発売開始後に再定義されたコードである。したがって、ホワイトウイングス版の機体番号は、系統的整理がやり辛い、一貫性のないものとなっている。

ホワイトウイングス版の機体の愛称

また、ホワイトウイングスの競技用機の多くには、実在する鳥類などの英名が、機体番号の後に愛称として添えられている。

例をあげると、「Racer 525 Sparrow」などという具合である。しかし、この愛称の無い競技用機も複数存在し、ここも一貫性がない。そもそも、二宮氏が機体に説明的な名称はつけることはあっても(例:T尾翼の競技用機、空飛ぶ自動車)、愛称で発表している例は非常に数少ない。

「ホーク」、「モモンガ」は一見愛称のようだが、実は機体形状をそのまま説明しているだけであり、愛称らしきものは飛行家に親しみ深い雲の名称である「シイラス、キュムラス」のような少数例があるのみである(どんな雲が出ているかで、乱気流など気象状況が予測できる。グライダーの操縦には特に重要である)。つまり二宮氏は「機体に愛称を付けない人」だと思われる。このように、ホワイトウイングス版競技用各機の愛称が、すべて二宮氏の発案とは考えにくい。
(※2019年9月14日追記:英語版パッケージには、日本語版では表記されていない、あるいは日本語版と同一の機体に異なる愛称が表示されている例が確認できた。以下に列挙する。)
Racer 512 愛称無し(英語版;Finch)
Racer 513 愛称無し(英語版;Meadowlark)
Racer 514 愛称無し(英語版;Goose またはSpruce Goose)
Racer 515 Cumulus(英語版;Robin)
Racer 516 愛称無し(英語版;Mockingbird)
Racer 517 Nimbus(英語版;Ptarmigan)
Racer 518 愛称無し(英語版;Cardinal)
上記のうち、514のSpruce Gooseは、Eddie Bauer Sport Wings by Whitewings 15機セットの外箱のみの表記で、中身の型紙の表記はGooseである。

プロフィール機のデザイン(※2019年9月25日追記)

プロフィール機とは実機の側面形を模して作られた紙飛行機のことである。

二宮式紙飛行機としては子供の科学版では97機種、ホワイトウイングス版として98機種、初期の海外単行本にのみ掲載されたものが3機種、計198機種が発表されている。一部のホワイトウイングス版こそ、実機の雰囲気をより良く出すためにカラー印刷された機体が存在するものの、そのほとんどは白い紙の生地を生かし、二宮氏のセンスで実機の特徴を単純化、記号化したデザインとなっている。そのためか、飛行性能のみを追求した競技用機と異なり、複葉機、レシプロ戦闘機、ジェット戦闘機など、多彩な形態であるにもかかわらず、すべてのプロフィール機が二宮式紙飛行機であると見分けがつくのだ。

例えばライト兄弟のフライヤー号(N-730A)に施されたデザインの単純化は、もう見事としか言いようがない。

また、レシプロ戦闘機やジェット戦闘機では、他の機体より高速に飛ぶように翼面荷重を調整してあり、リリエンタールのグライダーはゆっくりと飛行し、実機が飛行する雰囲気を楽しめるようになっている。このような多彩なプロフィール機を製作すれば、自分の部屋が「実際に飛ばせる航空博物館」になるのだ。


本稿は、所蔵している型紙を実際に見て確認して書いているものだが、執筆開始にあたり本棚にしまっておいた型紙集を整理して、そのバリエーションとデザインの美しさに改めて感動した。

皆さんも是非、二宮式紙飛行機を手に取っていただきたい。

(参考:日本紙飛行機協会ホームページ、誠文堂新光社「よく飛ぶ紙飛行機集」、AG社発売のホワイトウイングス)